| 友人 |
| 様々な事情があって、瑠璃垣家の、というか鈴都の書庫の整理は須藤晃がやっていた。 1学年の時から継続して行われている。 五十音順に、と言われて並べ出したが、英語やドイツ語はともかく、そもそもこれは何語なの…、誰か教えて、という文字や絵記号の書籍まで炸裂する瑠璃垣家の書斎は須藤晃にとって、魔窟だった。 時間の空いた週末に立ち寄ると、時々床いっぱいに本が広がってる時がある。 中央から僅かに人が動けるスペースがあり、あそこの中央に鈴都が居て、あちこち移動した結果がこうなんだな、と窺わせる現場だ。 まず足の踏み場を作る辺りから作業が始まる。 天に見開きにされた本を片端から閉じて行き、そこここにまとめる。中央に集めて横から眺め、タイトルで選別する。どうしても判らない本は別に。 抱えると顎で本を押さえるようにして凄まじく高い天井の書庫のハシゴを足で横に蹴るようにしながら移動させてそろそろと登る。 不器用で本を宙からぶちまけた事も限りなく、かなりの冊数を損傷させて尚、鈴都は須藤にその作業をまかせていた。 はっきりいって、執事の篠山に言わせれば、元国立図書館員でもバイトに雇い入れて有無を言わさず並べてしまった方がロスもミスも無いのだが、ぼっちゃま1号(鈴都)の気まぐれにも慣れに慣れたわ十何年だったので、一切口を挟まなかった。 代わりに時々作業にやってきた須藤に紅茶を届けたりする。 床にしゃがんでいた須藤が、ティーセットを実にメイドらしいメイド服を着たメイドが届けにやってきて前髪を掻き揚げて立ち上がる。 礼を言って、書斎デスクの上に置かれたティーセットに近寄り、また増えたと思しき未整理の本の山を横目に見ながら、ティーポットから紅茶を注いだ。 「君が来てるとは思わなかったな、晃」 視線を上げると長い金髪を揺らしながらドアに凭れて、鈴都が狐目に笑っていた。 「…これは?」 「ウルグアイのガウチョに関しての」 「これは」 「クトゥルフに関する闇の魔術の復刻書らしいけど眉唾だ。はっきり不出来だな」 「これは」 「先日受賞式があっただろう。スプラバル・ゴルカ・ダクシン・バフ勲章についてちょっと調べようと」 知らないよ、と言った後、ジャンルを分けてタイトルを聞き出し、頷いて須藤が前髪を掻き揚げる。 「今日は泊って行くのか?君の天蓋付きベッドルームもそのままだが」 須藤が手をつけなかったスコーンにクロテッドクリームジャムをたっぷり塗って鈴都が口に投げこみながら訊ねる。 「いや、帰るよ」 「…ふん」 親指を軽く舐めて鈴都が須藤の顔を見る。 切れあがった綺麗な二重が軽く眇められたが、それはほんの一瞬だった。 「今宵は鍋にするから、鈴音が帰るまで居たまえ」 「………」 無言の須藤に鈴都が重ねるように言う。 「会わずに帰るとまた鈴音に、様々に言われるぞ」 須藤はこう言う事態の押しに弱い。 1年の同居歴を誇る鈴都にはちゃんちゃら須藤の操作など朝飯前だった。 須藤が頷くと鈴都が謎のレシーバーを取り出して 「鈴音、一刻を争う帰宅を求む。オーバー?」 と喋りだして須藤がこけ、 「了解、オーバー」 と、鈴音から即時返事が帰ってきてこめかみを押さえ屋根壊さないといいな…と薄ボンヤリ考えて、その4分後には庭で大爆音がしたのだが、この2人は見に行かなかったという落ちがつく。 本が誘いをかける、としゃがんだり転がったりしながら、本を広げて読みふける鈴都の金の髪の側、須藤は鍋の支度が出来るまでその部屋の整理にいそしんだ。 |
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