| 携帯2 |
| 夫の浮気がわからない妻には注意力が無い。 携帯の番号が増えたり 身に纏う匂いが、時に変わる。 ささやかな、だがしかし確実に何時もと違う事をする。 服から食事まで世話をしていて。 部屋の掃除からゴミ捨てまでしていて。 気がつかない筈が無いではないか。 「晃さんの学校には行った事が無いわ」 夕食の最中に鈴子がそう微笑みながら言うと晃の手元が揺らいだ。 「…お兄ちゃんの学校はねえ…」 「だあってろっつ…」 解説しようとした輝樹を、光司がそもそも兄貴の校舎周りをうろちょろしてたら駄目じゃん俺ら、と至極当然の理論によって口を塞いで黙らせてむごむごと机の片隅で揉めていた。 「授業参観とか…、学園祭とか…」 晃の動作に変化があったのはほんの一瞬だけだった。 「…参観って年でも無いし、イベントは自分自体が行事に参加していないんです。鈴子さん」 すみません、と言いながら晃が白菜の漬物を取る。 その漬物が取り皿から食べられる事は無かった。 机の上も下も凄い事にしている耀の口に、味噌汁の豆腐を晃が子供用のスプーンで入れてやる。 耀は標準よりも小さく、カウプ指数のエリアでは下の子だ。言葉も遅い。 豆腐ついでにさやえんどうを入れると、これは嫌らしく、ちゃっかり口の外に出ている。 べたべたしたちっちゃな手で肩の辺りを掴まれながら、晃は耀に「食べる」と言う行為を続けさせる。 1番に食べ終わるのが晃で、何時の間にかこう言う流れになっていた。 鈴子は晃が耀に触れるような事はなんでも好きな様で、家の男連中に家事のひとつもけっしてやらせないのに、この「耀の食事」だけは何も言わず晃に任せていた。 白身魚のゼリー寄せを半分耀に任せて半分手伝って、という様子で食べさせながら小声で話しかける。 「美味しいか」「これは好きか」……他愛のない言葉。 耀が先に食べたデザートのオレンジの皮で晃の頬を叩く。 「おいしい」に代わる返事なのだろう、と晃は叩かれた方の片目を細めてそっと笑った。 携帯向けメールは本当に面白い。 短く、決められた枠の中で情報を送る。 文章を束ねる。知らせたい事を盛り込む。 でもどこか日記のような真似も出来て。 「もし」返事が着たら聞きたい事を密かに混ぜる。 輝樹の個人面談の事、耀の1歳検診の事、光司のサッカー以外の成績について。 我が家の今日の献立、帰宅予定時間の打診。 貴方のコートの肩口についていた貴方とは違う人の髪の毛は誰の? 子供達の事ばかりでは面白くない。時には自分の事も書こう。 もし貴方が浮気をしたら。 くだらない戯言。新婚の小娘がするような文でも簡素な文字数の中でなら言える。 相手を。相手を殺したいと思います。 私はそうです。 貴方はどうですか。 ……何時帰りますか。 |
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