| 携帯 |
| しん……と音絶えたような部屋に小さい音量で携帯が鳴る。 最弱の筈のそれは、須藤晃にとって、部屋に響いてとても大きい音に感じられた。 ベッドから身を起こすと、前髪を掻き揚げる。 黒い髪がひと房落ち、掻き揚げた残りがはらはらと無為だったかのように振りかかってくる。 携帯のモニターがブラックから、ライトに変わっている。 着信を知らせるその灯りを、机の上に見る。 「………」 そんな筈は無いのに、人が立っている気がして部屋の戸に視線がすべる。 布団の上から片膝を抱えて、そこに頬を寄せた。 やけに鳴る…、と気がついたのは何時からだろう。 「はい、晃さん、携帯、充電して忘れてらしたわよ」と鈴子に玄関で差し出された日を思い出す。 昼のみならず、夜までも。 メールも凄まじく携帯に届くようになる。 一括消しをしても、翌日には容量を越える。 音も半端ではない。 ある時、夜マナーモードにして音を「殺した」 その翌朝、耀の悲鳴のような泣き声で目を覚ました。 驚いて階下の両親の寝室まで走ると、鈴子が静かに耀を抱き上げて居る所だった。 「……何を…」 晃の声なぞ聞きもせず、鈴子は耀に言った。 「…どうして私の言う事を聞かないの?」 …優しい、静かな声だった。 その日以来、夜にマナーモードにした事は無い。 大体、自宅からの電話を除き、須藤晃にかかってくる携帯電話なぞ、たかが知れていた。 弟から。数人の友人から。 それも極稀に。 そんなものは月々の明細でもわかる。 何がそんなに。何を見て。 薄暗がりの中、本棚に視線を据えて考える。 鈴子は何を見て? ふいに光が走るように思い付く。 ベッドから身を乗り出して机の上の携帯電話を手にとり、ボタンを操作する。 「そこ」にはたった一つの電話番号があった。 友人、ショップ、親戚… 晃の考え出したささやかなカテゴリーから外れた、たったひとつの電話番号。 両の手で握った携帯を額につけるようにして目を閉じる。 「………………」 ――――夜はまだ長い。 |
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