殺戮にいたる病
電話が鳴る。電話はあまり好きでない。
続くべきものが打ち破られる。不快だ。

電話を取る。
「早瀬だな」
「どちら様ですか」
「不破は預かった。2000万用意しろ。また電話する」
切れた。
受話器を戻す。

レトロな黒塗りの電話機の前で、美点は首をかしげた。
緊迫している。

事体は火急を要するのだが、
「誘拐された人の名前を、ちゃんと聞いてなかった」
たまたま美点は馬鹿だった。

しかしイタズラでないなら大事件だ。

美点は考えた。
考えて、
考えて、
考える。

「神崎?」
一文字も合ってねえ。

「いや、違う。早瀬だ!早瀬が誘拐された!」
ニアピンで美点の思考は終わった。

早瀬が痛かったり、痛いにゃー!だったり、助けてにゃー!美点ーで、誰も助けに来なくて自力で逃げ出そうとして変なものを混ぜ合わせちゃって、それでばーんと倉庫が爆発しちゃって痛いにゃー!と死んだところで、
特に美点の明日は変わらないが、わざわざ見捨てるのも寝覚めが悪い。

とにかく電話してみることとする。

「お前よ。さっきから一人で何やってるんだよ?」
「黙れ!親父!ろくでなし!」
「緊迫した空気に乗って、好き放題言いやがって」

まさか間違い電話で誘拐事件を知って、その名前を聞きそびれたとは言いづらい。

美点は不破の家に電話した。

「はい、不破です」
「蓮太郎!大変だ。早瀬が誘拐された」
「その早瀬だけど?」

あれー?

「何だ。無事だったのか。ちぇ」
「あからさまな舌打ちありがとう。用件はその冗談で終わり?」
「冗談じゃないんだ。俺の家に、脅迫電話があった」
「はいはい。で、不破は?」
「蓮太郎?俺は知らない」
「っかしーな。帰って来るはずなんだけど」
「見たら電話する」
「頼む。じゃ、鍋見てるから」

受話器を置いた。
「おいおい。蓮太郎がどうしたって?」
横から口を出してくる父。
「違う。早瀬が」
「今話してたの早瀬だろ?声知ってるもんよ」
瞬間、

──早瀬だな。
──どちら様ですか。
──不破を預かった。2000万用意しろ。

「蓮太郎だ!」
「わ、びっくりした」
「誘拐されたのは蓮太郎だったんだ!」

息巻く息子に、父親は咳払いで答える。
「ちょっとちょっと美点君」
「なんですか」
「俺はちょっとしたプレイの一種かなって思ってたんだけどよ」
ふすまを開ける。

「蓮太郎を誘拐してきちゃったのかよ。お前」
ふすまの向こうに、ビニールテープでぐるぐる巻きにされた不破がいた。
たまに動くので、生きているには違いない。
美点は息を呑んだ。

「欲情?」
「馬鹿ー!!なんで止めないんだ!」
父はカレンダーを指差した。

今日は二月二日。
不破蓮太郎の誕生日だ。
そして。
二月四日に丸が付いている。

父親は出張中で、明後日まで帰ってこない。
テーブルの上に自分で飲んだ空き缶だけ。
一人だった。
気が付くと、手に栓抜き。
急に、
もう不破を殺すしかないと、
美点は立ち上がる。
栓抜きで不破の頭を割った。
庭に放り出す。
不破との思い出だとか、嫌だったこと、楽しかったこと、
何も思い出さなかった。
「美点には関係ない」
その言葉だけ思い出した。
美点は不破を、押入れにしまうことにした。
安心した。
なんだかよく分からないけど、
でも、
次を俺の番にしないために、
次は早瀬だ。

不破PLさんの許可を頂いて、書きました。
殺されてもいいわ!というひとは、美浦まで。
待ってます!
倉田美浦 

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