ひるさがり
日曜日、ほろへーん家に行った。
「これ、ちゃんと幌平くんと一緒に食べるのよ。ちゃんと感想も聞いておいてね」
そう言って母ちゃんが持たせてくれた新商品のケーキは、夏らしいブルーの箱に入っていた。
「ほろへー、あいつ何食ってもおいしいって言うと思うんだけどなー」
もう3年の付き合いになるオレは、ほろへーの反応なんてもうお見通しだ。

北海道から引っ越してきて、三年目の夏。
うだるような東京の暑さにはまだ馴れない。
オレはへこたれそうになりながらほろへーが一人暮しをするアパートにたどりついた。

額から流れ落ちる汗を手の甲でぬぐいながらノックすると、
バタバタというせわしない音とともに、ほろへーが出てきた。
「おう、いさぎ!暑かっただろ、まあ入れよ」
飾りっ気のないただの白いTシャツに、膝丈の短パン。どうやら愛用してるらしいボロボロのサンダルをつっかけて、狭い玄関から顔を出していた。
「これ、土産。母ちゃんが持ってけって。」
そう言ってブルーの箱を差し出すと、ほろへーはニカっと笑って
「さっすがマシロン!うまそー!」
と言った。
開けてもないのにわかるのかよ。

ほろへーの部屋は、なんともほろへーらしいというか、これまた飾りっ気のない、殺風景な部屋だった。きっと上京してきてから荷物は全く増えてないに違いない。
狭い台所には、どうやら沖縄から送られてきたらしい食料の入ったダンボールと、必要最低限の皿と鍋、それから炊飯器。
そして台所から続きの部屋は、ちょっと畳の香りのする、狭い部屋だった。
部屋の奥には布団が乱雑に折りたたまれていて、
壁にはいつもほろへーが着てる制服がこれまた乱雑にハンガーにひっかけられてあった。
「ふーん、まあまあきれいにしてんじゃん」
「物が無いだけだろ。基本的にあんま物買わないんだ」
ほろへーらしいと思った。
テレビからは日曜の昼らしく、騒がしいお笑い番組が流れていた。
ふうん、一人暮しってこうなんだ。
「まあてきとーに座れよ。」
そう言いながらほろへーは狭い台所に向かった。
「いさぎ、メシ食って来た?」
ひょいっと台所から顔を出してほろへーが聞いた。
「かるくなー。」
オレは壁によりかかって座ったまま、答えた。
「じゃあ僕のお手製ランチを食べるがいい」
そう言ってほろへーは台所で何かごそごそとやり始めた。
ぶきっちょな包丁の音とともに、ほろへーの「いでっ!」という声がする。
ほろへー、だいじょうぶなのかな。あいつ、見るからに器用とは思えないし。

一抹の不安がよぎりながらもオレはテレビのお笑い番組をぼーっと見ていた。
騒がしいだけであんま意味わかんねーなー、とか思いつつ。
そのうち、何かを炒める美味しそうなにおいがただよってきた。
ほろへーもこれはうまくいったと言わんばかりに鼻歌を歌っている。
「よし!できた!……おい、いさぎ、冷蔵庫から麦茶出しといて。」
オレは小さな冷蔵庫からひんやり冷えた麦茶と、それから冷蔵庫の上に無造作に置いてあったコップを二つ取ってきて、なみなみと注いだ。
「さあ、ほろへー様特製、ゴーヤチャンプルーだぞー!」
ほろへーの持ってきた料理は、盛り付けのセンスのかけらもなかった。ただ白い皿の上に緑となんだがぐちゃぐちゃのものがどん、と乗っているだけ。
「ほろへー、これ何?」
「だからゴーヤだってば」
オレは生まれも育ちも北海道だから、ゴーヤなんて食ったこともない。
「おいしいの?」
「夏といえば、ゴーヤだろ!これ食べなきゃ始まんないって」
そう言いつつ、うまそうに食うほろへーを見ていたら、オレのおなかもぐーっと鳴ってきて、ゴーヤを一切れ口に入れてみた。
「………。苦いよ、ほろへー。」
「だってゴーヤだもん。母ちゃんが大量に送ってきたんだ」
ちょっとオトナの味だ、とオレは思った。
オレ、ケーキ屋の息子だし。
甘党だし。
「ていうかさー、正直僕もここ毎日ゴーヤだらけでさ、ちょっと飽きちゃったんだよな。母ちゃん、送ってくれるにしても限度知らねえっつーか。」
そう言いながらほろへーは、頭をかきかき笑った。
「にしてもあっちぃな〜」
さっきから騒がしい笑い声をあげていたテレビのスイッチをほろへーは切った。
途端に、開けてあった窓の外から、蝉の声が洪水のように入ってくる。
「せみ、鳴いてるなー」
オレが言うと、ほろへーは
「やっぱ夏っていいよな」
そう言って、なみなみと注いであった麦茶をぐいっと飲んだ。
コップのまわりには、涼しげな雫が流れていた。
白いTシャツのほろへー。
それから蝉の声、冷えた麦茶。
ゴーヤはちょっとオトナの味だったけど、
なんか夏もいいかも、と思った。
そして、夏はほろへーに一番似合うと思った。

一年も前に書いたやつを引っ張り出してきて便乗。
これを書きながら、案外原くん超高級マンションとかに住んでたらおもろいのにな、とか思ってました。
某うめ 

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