| 凶悪な男。 |
| あ、いた。 遠目から見てもすぐ見つけられるのは何故なのか。小柄な身体を不機嫌オーラで身を包んで、彼は雑踏の中で立っている。腕を組んでイライラを隠そうともせずに足で地面を蹴りつけては、不穏な目つきで獲物を探しているように時折視線を周囲に配っていた。 うーん。怖い。怒っている。 いやぁ、時計を確認してみましたがね。 待ち合わせにはまだ10分早いんです。 別に俺、遅れてる訳じゃないんです。 なのに何で怒ってるかな。 …何となく、理由は解るような気がしてきたけれど。 でも余りにもその理由って理不尽なので。 まさかなぁ。俺、他に何かやったかな。 このまま遠目から見守っていると、本当に時間に遅れてしまうので後5分というところで彼に歩み寄る覚悟を決める。軽く片手を挙げて、いつも通りに気さくに挨拶を交わそう。 「おはよう東芝。今日は珍しくお前の方がはやかっ…」 「おっせぇんだよデカブツがあっ!!」 ドカンッ。 挨拶終える前に蹴られました。 痛い。痛いです。弁慶の泣き所に激ヒットです。 「―――――…と…東芝…何で怒ってるんだ……?」 「うるせぇ!何で俺が松下より早く来てなきゃねぇんだよ!!」 ………。…ぇー?…。 「てめぇの取り柄はその並外れたデカさだろうが!!目印になんねぇだろ!!」 「…いや、あの…」 「この東芝様が迷子になったらどーしてくれんだ松下ぁ!!こんな雑踏で迷子のお知らせされたらどうすんだおらぁ!!」 「…え…。迷子になってたら…探すけど…」 「そういう問題じゃねぇだろ?!」 ゲシッ。 痛い。痛いです。ケツに爪先入りました。 「あぁ、もう!映画に遅れるじゃねぇか!ったくこれだから松下はしょうがねぇな!行くぞ!」 …さっさと歩き出す小柄な背中。 身長196cmの松下くんは、慌てて東芝くんの背中を追いかける。 今のは俺が悪かったの。ねぇそうなの神様。これは理不尽じゃないの。 ここは俺怒ってもいいんじゃないの。 「ねぇ松下、俺の分もチケット買って♪」 「あぁ」 ―――――…あれぇ?何で俺は逆らえないの? これは二人の日常茶飯事。 (了) |
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