| 近くて一番遠い駅 vol.2 |
| ―――――だって。最初に出会ったのは、俺の方が先だったはずだろうに。 自覚症状が出てしまった俺は、クラスが離れてる事が都合良かったのか真白と距離を置き始めた。顔が見れなかったのだ。そんな俺に真白は勿論突っ掛かって来た。俺が何かしたのか、言いたいことがあるなら言え、と。言える訳がないだろ?俺はのらりくらりと奴の追撃をかわすしかなかった。 自覚してしまえば、今までの自分の過去を思い返せば合点が行く事ばかりだった。付き合った彼女が居なかった訳じゃない。けれどいつの間にか真白と比べていたり、好みのタイプの女は大抵真白に似ていた。何で変だと思わなかったんだろう。いや、多分思ってた。心の奥底で認めたくなかったんだ。 親友に欲情する自分を認めたくなかった。 原が、俺の所に来た。 真白が凹んでるのだと言って来た。喧嘩してる訳じゃないなら話をしてやってくれと。話もろくに取り合ってもらえないのは、真白だって辛いからと。何も知らないで善人面したこいつは、のこのこと俺の目の前でそうのたまった。 異様にむしゃくしゃした。元はといえばこいつが。こいつが俺たちの間に入ってこなければ。こいつが居なければ俺は自覚することもなく、ずっと真白を大事にして、想像や夢であいつを汚すことも無く。 ぐるぐるぐるぐる。思考が回る。目の前で原が何か言ってても、俺の耳には届いていない。俺は音声がミュートされたテレビのように原を見ていた。それに苛ついたのか、原が「なぁ、小村!」と口調を荒げて俺の二の腕を掴んだ。―――――その後の事は俺はよく覚えていない。 気がつけば、俺は白いシーツに包まって、狭いベッドの上に横たわっていた。 鼻をすする音が聞こえて、俺は視線をそっちに向けた。真白が泣きじゃくっていた。ベッドの脇に座り込んで必死で声を抑えている。俺が目を覚ました事にはまだ気づいていないようだった。 「自分、何泣いとんねん」 手を伸ばして、腫れた目を擦る拳をとんとん、と突付いた。驚いたように身体を少し揺らした真白は、俺の顔を覗き込んで瞬いた。視点が合うと、また顔を歪ませた。 「…泣かせたんは俺?」 首を何度も横に振る真白を真正面から見ようと、身体を起こそうとすれば左頬に痛みが走った。徐々に記憶が蘇って来る。どうやら俺は腕を掴まれて逆上し、原を殴って原に殴られて自分の方が先にのびたようだ。そのまま俺を殴った本人に保健室まで運ばれて、この状況になっているということか。実に情けない状況だ。 けれど、殴られてスッキリした感が有る。 「なぁ、真白」 俯いている真白に、数日振りに声をかける。俺は痛む左頬を手で押さえながら、口元の右端だけを知らずに軽く持ち上げた。 「あいつ、ええ奴やんな。お前の為に俺んとこ来たで」 「…小村……」 真白は、大好きな俺と、大好きな原が喧嘩した事が悲しかったと言った。俺はそれを聞いてもう十分だった。「親友として大好きな小村」で居続ける事でいい。この想いを打ち明ける事はしない。負け惜しみでもなくそう思った。 本当はもう知っていた。気づいてしまっていた。俺はずっと真白を見ていたから、解ってしまった。真白が追う視線が誰を向いているのか。 俺が本当の気持ちを自覚した時に、その恋が散った事も自覚していたのだ。 ―――――…なぁ。俺ら一番最初に出会ったん、いつやったかな? 長い事二人でずっと一緒に居ったやんな。 お前の隣には俺。俺の隣にはお前。 最近になって、ふと思う事がある。 俺らは隣同士の駅なんやないかなぁって。 友情とかそういうこっぱずかしーもんを線路と例えて。 俺らはそれで繋がってて。 多分、お互い一番近い駅が俺とお前で。 けどなぁ。発車する列車の進行方向は向き合って無かったんやろなぁ。 お前と俺は凄く距離が近かった駅なはずなんに。 進行方向逆やったら、お互いが一番遠い駅になってまうんよなぁ。 少し胸はまだ痛むけど。 俺が向かった進行方向には多分…いつか停車するだろう駅はある気ぃすんねん。 そん時はちゃんと知らせたるから心配すんな。 さーて、出発する時刻が来たようやし。 そろそろ行くわ! ほなまたな。 (了) |
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