『 犬と猫 』


 猫は夜中の日付が変わる頃、「コンビニに行くぞ」といきなり言い出した。
 犬は風呂から上がったばかりだったが、猫に付き合う事にした。

 「で。コンビニで何を買うの?」
 「牛乳。さっき切れた。」

 ああ、そういえばカウンターに牛乳が半分以下ほど入ったコップがあったような気がしたなぁ、と犬が思いながら歩いていると、その横を猫が道端で見つけた缶を蹴りながら先に進む。「てい!てい!」と蹴っては前へ、蹴っては前へと遠ざかる猫の姿を、犬は糸目でのほんと見やる。「ホントに猫みたいだよなぁ」と呟いて、脳裏に玩具のボールを手で突付いては転がっていくのを追いかける仔猫の様子を脳裏に思い浮かべた。

 「何か言ったかぁー?」
 「何でもありませーん」

 何気に耳が良い猫に対し、のんびりと間延びした声で犬は返した。


 辿り着いたコンビニの中へ入ると、猫は真っ先に紙パック飲料がある棚へと向かう。その後ろを追って、犬は隣の棚へと視線を向けた。

 「あ。明治のおいしい牛乳いちごミルクがある。」

 犬は新商品や限定品に弱い。この時のいちごミルクは今まで犬の目に留まらなかった物だった。どうやら最近発売したばかりのようだ。そんな様子を隣で見て、猫は手に物色した牛乳を持ちながら問う。

 「苺ミルクにそんな違いあんの?」
 「贅沢倶楽部の苺ミルクは美味しいヨ。」

 と、犬は自分のお気に入りらしい銘柄の苺ミルクを述べた後、アイスが売られている冷凍棚へと移動していった。後ろから猫が様子を眺めていると犬は手に持っていた店内用のカゴに、ハーゲンダッツをポイポイ入れている。思わず後頭部へとチョップを繰り出した。

 「あ、いて」
 「入れ過ぎだ!アイスはまだ家にあんだろーが!」
 「だってアレはヘーゼルナッツ味だもの。こっちはエスプレッソだもの。」
 「甘ったるぅー」

 呆れてモノが言えん、とばかりに猫は眉根を寄せた。最近犬がハーゲンダッツの新商品や限定品に弱いという事を知っていたが、いい加減度を越している気がしてならない。渋々と犬はカゴからハーゲンダッツを戻す。どうやら新しく出たエスプレッソ以外の、もう一つの限定品は諦めたようだった。それを確認してから猫はお菓子の棚へと移動した。
 バサ、バサ、とカゴに入れられて行くお菓子を見て犬は珍しく糸目が開いた。

 「え。何。この箱買い。」
 「え。冬の主食。」

 猫がカゴに入れていたのはチロルチョコの塩バニラときなこもち味の箱が合計4つ。

 「…さっき甘いのに対して文句言ってた人、誰。」
 「チロルとアイス一緒にすんじゃねーよ。」
 「っていうか、チョコばっかり。夜中に鼻血出たって知らないヨ?」

 輪っかになってるマーブルチョコをくるくる指で回しながら、「輪刀!」とカゴに投げ込んでいる猫を見て、犬は糸目でため息一つ。そんな犬を見上げて猫が首を傾げる。

 「つーかお前も食うと思ったんだけど。限定物好きな癖にチロルは範囲外?」
 「チロルはミルク味が好きで。」
 「ミルクなんてあったのか。」
 「知らないの?ホルスタイン柄の包装のミルク味。」

 そろそろ会計するよ、とカゴをレジに持っていこうとする後ろで、猫はうーんうーんと唸りだす。だだだっと走り出したと思ったら、チロルの箱を戻して色々な種類の味が入っているアソート袋と交換。きょとん、とその行動に目を瞬かせた犬は、ミルク味入りのチロルアソート袋を見て微笑した。

 レジの前で追加でおでんも買い込む。寒くなってきたらまずおでんは基本。

 「あ。15円ある?小銭足りない。」
 「んー。ん。」

 猫のポケットからゴソゴソと出された35円とドングリ。何でドングリ。しかも20円多いんですケド。そんな疑問はとりあえず口には出さずに会計を済ます犬。余計な事は口にしない。そんな慣習がついている模様。そして20円とドングリは犬のポケットの中。
 そんなこんなで買い物を済ませ、コンビニから出た犬と猫。あったかおでんとあったか気持ちを、二人はユラユラ歩いてお持ち帰り。途中でおでんは猫が既に自分の分だけ腹の中。満足そうに戻った部屋で、ソファの下の床に直接座り込んでおつゆを啜る猫を見て、犬はポツリと呟いた。


 「…で。お前いつ牛乳飲むの?」
 「!!」

 の、飲むよ!と素知らぬ振りで立ち上がり。残ったおでんを犬に渡してキッチンへと向かう猫の背中を、犬はとても面白そうに眺めていた。

 これはある日のいつものお話。







 >>>中の人   -- 07/11/02-01:22..No.[191]  
     どっちも飼い主になれると思ってマス。


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