迫る体育祭

「期末テストが終わったと思ったら、もうすぐに体育祭の練習かよ」
 初夏の強い日差しを浴びながら、校庭にたたずむ少年はぼやいた。
 梅雨はもう抜けたらしいが、暑さの上に校庭の空気が孕んだ湿気はかなり高くて、乾かない汗がだらだらと、体操服の下を流れていく。
「まーそう言うなって、体育祭終わったら夏休みじゃんな」
 少年の後ろからやってきた友人が、彼の肩をぽんと叩いて気楽に笑った。友人の髪は、まばゆいほどに金色だ。
「夏休みは夏休みで、部活の合宿あんだろ」
 体を動かすのは嫌いではないが、と日光を吸収する黒髪に指を差し入れ、少年はつぶやく。
 こめかみのあたりを伝う汗が不快だ。白い体操服の上を引っ張って、ぬぐった。
「それに、競技がな……」
 少年は、己が手にしているものを見下ろして、笑いとも、ため息ともつかないものを吐く。
 それは、銀色に輝くデザートスプーンである。
「玉運ぶにはちっちゃくねぇか、これ」
「窪みがあるだけで有難いと思えよ、俺なんかコレだぞ」
 金髪の少年が示して見せたのは、お好み焼きのコテ。
「でかいじゃん」
「でかさの問題じゃないだろ」
 顔を見合わせて笑った少年二人は、さすが俺らの学校だよなと同時につぶやいた。と、校庭の向こうで、教師の小衣が集合をかけている。
「行こうぜ」
 友人に促され、少年は歩き出す。
「お前何座だっけ」
「おとめ座」
「なんだ、敵かよ」
「お前は?」
「しし座」
「俺、今回初めて自分の星座知った」
「俺も」
 くだらない会話をしながら、それでも、やはり体育祭に対する期待は大きい。しかも、期末テストから逃れた今となっては、閉じ込められていた若いパワーが発散する機会を求めてうずいている。
「大谷先輩の応援ってどうなのよ」
「まぁ、盛り上がる事は確実じゃねぇの。まさか女装しねえだろうな」
 二人の脳内に、チアリーダーの格好をして、ボンボンを振る、大谷遊の姿が浮かぶ。
「…………」
「まさかな」
「まさか、だよな先輩」
 はっはっは、とどこか軽い笑い声が、口から無意識のうちに漏れていた。



 >>>とく   -- 07/07/08-15:46..No.[187]  
    皆で体育祭競技参加しようよ、っていう


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