はちみつレモン


「え?今年のインハイと春高バレー?」
「おうよ」

 蓮池志乃は目を瞬いて小花未来をマジマジと見やった。放課後の3年A組の教室で、小花は自分の机の上に腰かけて嬉々と話す。蓮池は今まで小花は練習に熱心な方だとは思っていたが、インハイや春高バレー等の大きな大会で結果を残したいと言い出したのは初めて聞いたのだった。何が切っ掛けなのかと考えてみたが、理由は一つしか思い浮かばない。
 今年から自分達は最上級生へと昇級し、小花はバレー部の部長になったのである。蓮池自身、自分が所属する映画研究部の部長を務めている事もあり、その気持ちには多少共感を覚える部分があった。

「アンタって無駄に責任感負う奴よねぇ…」
「大学リーグ目指す事にしたんだよ。だからこそ今年のインハイと春高バレーには出てぇの」
「…ふぅん…まぁ、差し入れしてあげなくもないわよ、お弁当」

 頑張りなさいよ、と笑って応援している蓮池に対し、小花は難しい顔をした。その様子に怪訝そうに伺って見ていると、小花は先程までのやる気があるトーンとは一転し、溜息交じりに呟いた。

「…そう。マネージャー的なのがさ。いねぇのよ。今更だけど超男くせぇ…」
「ああ…そういえばバレー部には居なかったわね」
「運動部には一人くらい居るじゃん。レモンの何かをどうにかしたのを冷蔵庫に入れてくれる的な」
「…レモンのはちみつ漬けよ」
「そうなのよ。そういやいねぇのよ」
「ひとの話聞いてる?」

 鬱陶しい程のでかい図体が背中を丸めて眉根を寄せている姿に、蓮池は両腕を組んで一息吐くと肩を竦めた。こうなったら出てくる次の台詞は決まったも同然である。

「じゃあ、入るわよ。マネージャーとして」
「えっ」

 弾ける様に顔を上げた小花を、傍らで笑って見下ろす。あまりにもアッサリした蓮池の物言いに一瞬二の句が継げなかった小花だが、慌てて矢次早やに言葉を繰り出した。

「3年でまさかの入部かよ。良いの、お前」
「だってそこまで本気になってなかったでしょ、今まで」
「ないな」
「アンタが進学の事で凄く悩んでたの知ってるのよ、アタシ」
「………」
「そのアンタが大学リーグ行きたいってやる気出してるのに、協力しない訳が無いでしょ。アタシは美容師志望で受験も無いから大丈夫。アタシのサポートに不安なんて覚えさせないわよ」
「…此処に来てまさかのミラクル。やっぱ4月中には一度集まりてぇわな」

 小花の顔から憂いが消え、また瞳の奥が輝きだした様子を見て蓮池は単純な奴だ、と密かに笑う。そしてもう一つ蓮池自身が面白そうだと楽しみに思う事があった。

「ねぇ」
「ん?」
「キャプテンのアンタとマネージャーのアタシが考えた練習メニューって相当鬼畜そうよねぇ」
「ああ。勧誘した一年には緩くない、優しくもない、とは言ってあるので、盛大に」
「言葉で言われたって何処までそうなのか、その子たち全く想像つかないんじゃない?」
「まー最初はちと簡単なのからだな」

 やる気が有り余る鬼キャプテンの頭の中には、既に荒行とも言えるべき練習メニューがある程度組み込まれているようである。まずはテーピングと応急処置を勉強しておくか、と心に決めた蓮池なのだった。







 >>>中の人   -- 10/04/10-02:12..No.[201]  
    PL会話に肉付けしたらこうなりマシタ。的。
蓮池がバレー部のマネ子になった経緯の話デシタ。


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