それでも

 会いたければいつでも会える。
 今生の別れという訳でもない。
 この街はとても狭いから、きっと声をかければ、先輩達は自分と遊んでくれるに違いない。

 そう、何度も呟いた。

 

 からっぽの、2階。教室だけがただそのままで、それでも、月曜の昼には、もう先生方の手によって、綺麗に、真っ白に片付けられていて。
 もう少ししたら、自分達があの教室に移動するなんて事が、とても考えられなかった。
 3階で授業を受けていて、感じるはずもないのに、足元から、何か冷たさを感じた。
 自分達の一階下に、もう先輩達はいない。
 
 空っぽのロッカー、空っぽの教室、空っぽの下駄箱。
 そうだ、先輩が、自分が貸していたCDを、自分の下駄箱の中に入れておいたとおっしゃっていた。放課後に取りに行こうと決めて、すごした一日。
 なんとなく、卒業式というものが、かりそめのように思えていた一日。式の最中もずっと涙は溢れていたけれど、それでもやっぱり実感はできなくて。
 夕暮れ差し込む校舎の中。しんと静まり返った階段を下りて、先輩の下駄箱を開ける。
 空っぽの下駄箱。上履きも、外履きも、ランニングシューズも入っていなくて、そこにただ、自分の貸したCDだけが自分を待っていた。

 CDに伸ばそうとする手が震えた。

 それに気づいて、きゅっと拳を握る。

 このCDを自分が取り出してしまえば、この下駄箱は、本当に空っぽになってしまう。
 それがまるで、先輩達とのつながりが切れてしまうような気がして。

 ゆっくりとCDに触れて、それを抜き出す。本当に空になった下駄箱を見るのがあまりに切なくて、自分はパタリと戸を閉めた。
 さんざん卒業式でウルウルしたというのに、また涙があふれ出る。先輩と過ごした期間はたったの2年間。
 長い人生の中では、きっと本当に短い時間。
 それでも、先輩達の存在はあまりに大きくて。置いていかれたような寂しさはどうしても拭えなくて。
 手にしたCDの上に、ポタポタと涙が落ちた。それを拭う事も出来ずに、自分はただ、下駄箱の前で呟く。

 先輩。今まで、ありがとうございました。



 >>>在校生pl   -- 08/03/11-02:52..No.[195]  
    卒業式は否応なく泣けます


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