意外な入部。


ドンッ。

穏やかな陽気の放課後、穏やかじゃない音が体育館に響く。

ドンッ。

よく聞けば、その前にでぇいっ、とかせりゃっ、とかいう気合の声が聞こえる。しゃぁっっと一声聞こえた。
その声に聞き覚えがある気がして、鏡は中を覗き込む。


「……あ?」


意外な光景が目に飛び込む。自分の親友が、Tシャツにハーフパンツという姿でバレーボールと取っ組み合い……じゃない、サーブ練習をしてる姿。


「…何してンだ?」


思わず呟いてしまった、と言うのが正しいだろう。そんな呟きに、親友――山上聡史――はボールを片手にもったまま、へらん、といつもの気の抜ける笑みを返してきた。


「んぁ?おー、鏡ー」
「よぉ。…一人遊び…?」
「しっつれいな。練習練習。……あ、そか。鏡にまだいってなかったっけー。俺、バレー部入ったんだー」
「…………は?!お前が、バレー部?」


あまりに意外な言葉に、思わず素で驚く鏡。そんな鏡をみて、山上はぶー、と顔を膨らませた。


「なにー、俺がバレー部だと、なんか文句あるわけー?」
「無いけどー…。お前みたいな面倒くさがりが、しんどそーなバレー部でやってけんのかなと思って……って、うぉおおおっ!?」


顔を膨らませたままの山上にサーブを打たれて、鏡は条件反射的にボールをレシーブした。驚きながらも無事返されたボールに、山上はちっと舌打ちをしてる。


「めんどくさがりは否定しないけどー。俺は楽しそうだったらなんでもやる主義なのー!」


言いながら高いジャンプをして放たれるアタックを、鏡はなんとかレシーブした。だが、返したはずのボールは明後日の方向へと飛んでいってしまう。


「のぁっ!?」
「やーい、鏡のど下手ー」
「あほ、バレーボールなんてドンだけやってねぇと思ってんだ」


ボールを取りにいきながら、はぁ、とため息を一つ。そして振り返って山上に言う。


「つーか続くのか?」
「まー。楽しけりゃ、つらくてもだいじょびだじょび。それが俺クオリティ」
「ちょー幽霊部員になりそー。わけわかんねぇ……よっ!」


おりゃっと突っ込み代わりのサーブを入れる。それを上手くレシーブした山上は、にや、と笑った。


「ならねーもん。楽しけ……りゃっ!」
「今はそうでも、この先がどーなるか、だな!」
「楽しいことは好きだしー。楽しそうだったし…う、りゃぁっ!」
「え、ちょ、えぇええっ!?まてよ、お前!」


他愛のない会話とは裏腹に、ボールにこめられた念は本物だ。そのうち、沈め!とかいう言葉まで出て来る。


ひとしきりボールを打ち合った後、二人は笑いながら並んで体育館に座っていた。


「つーか何でいまさらバレー部?弓道部入ってたんじゃねぇか?」
「いやーバレーが楽しそうで、っつーかあのノリが楽しそうで」
「ノ リ だ け か よ おい」


思わずツッコミを入れた鏡に、山上はへらへらー、っと笑ってだって楽しそうだったしー。と、ごまかしてる。


「いいじゃんー。なんにせよ楽しけりゃー」
「……まぁ、山上らしいっちゃぁらしいけどな」
「ならおっけー。もうまんたいー」


そんな風にへら、と笑っていた山上の顔が、ふと真顔になる。


「やっぱ弓道とかけもちってのはむぼー?」
「ンー…むぼーかどうかは判らんが、両立出来るンだったらいいんじゃねーの?」
「両立なー。弓道部って、もはや自主練に近いからさー」
「自主練がメインなら、バレー部入ってても大丈夫なんじゃね?」
「や、自主練だからー、それこそ幽霊部員になりそーでさー」
「寧ろもうなってる可能性あったりしてな」


それまで真面目だった雰囲気が、一気に瓦解した。


「なっ…い、いちおー部活でてるし!」
「ふぅん?」
「ぶー。鏡に相談した俺がバカでしたー」


まったく、といいながら、山上が立ち上がる。つられて鏡も立ち上がった。


「まー怒るな怒るな。がんばれ、バレー」
「うっさいなー。言われなくてもがんばるしー」


どうやら機嫌をそこねてしまったらしい親友をみながら、鏡は山上の後について体育館を出て行く。


「ほれ、学食でなんか飯おごってやっから、機嫌なおせー」
「……じゃぁ、豚しょうが焼き定食ー」


なんだかんだで、食べ物に釣られる山上。釣る鏡。

そんな二人の関係。



 >>>灯霧   -- 10/07/16-22:47..No.[207]  
    すっごいてきとーに茶ログに肉付けしました。脚色アリ。

ごめんなさい。バレー部に入部して舞い上がってるんです。あのノリは素で楽しいです。(笑)

長文、失礼。(ダッシュ)


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