弟。(※長文注意)


 今だから言えることだが。

 正直、最初はかわいいとかよりは、うるせぇって思った。
 8歳も歳が違うと、多分すっげぇ可愛がるか、うっとうしく感じるかのどちらかだと思う。俺はうっとうしく感じたタイプだった。
 赤ん坊なんて、泣くのが仕事みたいなもんだ。子供ながらにそれはわかっていた。でも、うるせぇっていう思いは消えなかった。


 
 「にーちゃ、にーちゃ」
 「うるさいな、こっちにくるなよ」


 俺が小学校中学年から高学年になるころ、ハイハイから二本足で立ち上がって歩くようになって、凌の行動範囲は広がった。家の中ならどこにいても、俺についてくる。俺のランドセルによじ登っちゃ、ドテって落ちて泣き喚く。俺の部屋に入ってきちゃ、いろんなものにぶつかったりして俺が大事にしてたプラモデルとかはぐちゃぐちゃになった。
 
 うっとうしかった。




 中学2年。親がまだ、手のかかる凌にかかりっきりだったのもあって、俺は何もかもが面倒になって、学校にまともにいかなくなった。たまに外に出れば、ケンカばっかりしてきた。何もかもが気に入らなかった。


 「にーちゃ、あそぼ」
 「うっせぇな。あっちいけよ、こっちくんな」

 正直、ガキの頃からまったくと言っていいほど面倒を見なかった俺に、凌がなついてた理由はいまだにわからない。ただ、小学校に行くようになってから、凌はいつも聞いてきた。うっとうしいくらいに。


 「にーちゃ、なんでガッコいかないの?」
 「凌に関係ねぇだろ。うるせぇな」
 「にーちゃ、おべんきょうは?」
 「んなの、知ったことか」




 見るに見かねた親が、俺を有海高校に入れることにした。受験勉強なんてふざけんなって思ってたけど、今から思うと有海にいけてよかったと思う。
 ただ、俺はやっぱり単位ギリギリしか学校には行かなかった。その頃になると、凌も流石におかしいと思ったのか、少しずつ俺から距離を置くようになった。


 「斎。母さんがこれ渡せって」
 「ああ。そこ置いとけ」
 「…………斎。学校は行ってるの」
 「適当にな」
 「楽しい?」
 「……さぁ。よくわかんねぇ。授業はかったりぃし、ダチも数えるくれぇしかいねえしな」
 「……そう」


 俺がなんの目的もなく大学に入った頃、凌がグレた。俺とは正反対に、家に寄り付かなくなった。外泊が多くて、学校に親父とお袋が呼び出されるのは日常茶飯事だった。
 俺は適当に大学行って、適当にバイトして、適当に仕事を探した。


 「ただいま」
 「よう。久しぶりだな」
 「斎に関係ないだろ」


 短いやり取りの中に、俺への嫌悪を見つけた瞬間が、とても悲しかった。散々俺が凌に言ってきた言葉をそのまま返されて、その言葉のトゲってのを始めて知った。

 あれだけうっとうしかった弟が、いきなり愛おしくなった。


 
 突き放してた時間を埋めるように、俺は凌に構い始めた。あいつが中3の頃、有海を受けるように薦めたのは、ただ単純に、俺があそこで少し楽しい経験をして、少しだけ人生を見れたからだった。


 「しーのーぐー」
 「ノックなしで部屋に入ってくるなって言ってるだろ」
 「気にすんなよ。なぁ、酒のまねぇ?」
 「断る。斎と飲むと、斎がすぐに潰れるし」

 
 あいつが嫌がることをわざとやって気を引くなんて、ガキの初恋みたいなもんだ。だけど、それ以外に俺は方法を知らなかった。

 どうやって話しかけたら、これだけ愛おしいって伝わる?
 どうしたら、俺が今までの過去を悔いてるって伝わる?
 凌は俺を理解してくれるのか?
 俺は凌を理解できるのか?


 なぁ、未来の俺たちは、仲良く生きてるか?



 「朝倉さん。ご飯できましたよ」
 「おう、サンキューな」
 「何書いてたんですか?」
 「んぁ?……ま、なんつーのかね。未来の俺と凌に宛てた、手紙みてぇなモンだ」



 今俺は、八剣ってやつの家に厄介になってる。もう一人の同居人も、なんか捨てられそうだったから拾ってきたっていう八剣の言葉に納得してた。俺は子犬か、とも思ったけど、笑っておいた。
 八剣に中身が見えないように紙を折りたたんで、封筒にしまう。それをスポバに入れた。


 「なぁ、八剣。凌さ、どんな感じ?」
 「まぁ……強いて言うならいつも通りですかね」
 「いつも通りか」
 「ちゃんと考えているかって聞いたら、頭にハテナが浮かんでましたよ」
 「ははっ、まぁあいつはそうだろうな。……いいんだ、すぐじゃなくても。いつか、普通の兄弟みたく仲良くなれるって信じてるからさ」


 にやっと笑った俺は、背の高い八剣を見上げて飯食おうぜ、と言う。
 何も考えてないわけじゃねぇし、ただどうやったらいいのか試行錯誤の俺たち。
 わざわざ就職したのに、結局やめてバイトしてる俺を凌は軽蔑してるんだろう。その頃から、散々いなくなっちゃえばいいのにって言い始めた。人づてに聞くと、あちこちで兄貴をあげるって言ってたみてぇだ。
 ショックじゃなかったかと聞かれれば、ショックだった。だけど、それだけのことをしてきたって自覚はあったから、仕方ねぇよなって苦笑するしかなかったんだ。


 俺は夢を追いかけながら、凌を見守ろうと思う。たとえどうなっても、俺だけはアイツの味方でいたいから。






 >>>朝倉ぽれ   -- 11/01/18-22:49..No.[220]  
    とりま、考えていた裏設定を文章にしてみました。
……こういう兄弟って、アリなんでしょうか?

八剣君との会話は、捏造です。すみません……!すっげぇ無断!取り消しできます…!(まて


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