「大変だ!佐野が攫われた!!」 「なんですって?」 溜まり場となっているダーツバー『有海』に、一気に緊迫した空気が走った。 飛び込んできたライダーDEAR+こと夢前は、よろめきながらカウンターに行くと、マスターの差し出した水を一気に呷った。ライダーCharaのベルトの持ち主である勅使河原も、穏やかではない表情でカウンターへと歩み寄る。 「…またしても『JUNE』の仕業ですか……」 「うん……あいつ、二鷹市街でナンパするって張り切ってて、珍しく綺麗系のお姉さんをひっかけるのに成功したと思ったら、いきなり取り囲まれて……。連れ去ったのはあいつだ。オレンジの髪の、最近現れたヤツ!」 「美点…と名乗っていましたね。やはり、彼も不破の手下なのでしょうか…」 目の前でまんまと佐野を拉致された自分の不甲斐無さを呪ってか、夢前が手にしたグラスをカウンターに叩きつける。その憤りをたしなめるように勅使河原の手が優しくコップを取り上げた。 「落ち着いて?まずは対策を考えましょう」 癒すような笑みと言葉により一瞬和らいだ空気だが、不意に開いたドアによって、直ぐに緊迫したものに戻る。 「やぁ、いらっしゃい」 マスターの穏やかな声に、僅かに緊張が解れる。 地下を基地として改造してあるとは言え、ここは表向きは普通のバーなのだから、入口のドアはいつ開いてもおかしくないのだ。 「お久しぶりです、先生」 「…その呼び方はやめてくれって、何度も言ってるだろう?」 入って来たのは、やたらと背が高い男だった。 一見すると年齢はマスターより少し上くらい。だが、マスターである松原に向けられた呼称は、普通は年上に向けられるものだ。 「紹介しておくね、2人とも。こちらは神田潔君。君たちの先輩だよ?」 促され、未だ警戒を解かない夢前と勅使河原の前に、神田と呼ばれた男が一歩進み出る。 「2年前のライダーバトルの生き残り。ライダーCIELとして闘った男であり、また君たちの在籍する有海学園のOBだ」 過去のバトルの事はベルトと、そしてDEAR+とCharaのコインを受け取った時に、簡単に説明を受けた。学園全体を巻き込んだ壮絶なバトルであり、数人の仲間を失いつつも勝利を掴み取り、敵を封印したのは当時裏生徒会として動いていた『BL』と呼ばれる団体であったと。 「では、もしかしてマスターは…」 勅使河原の問いに、松原が苦笑と共に答える。 「松原先生と…そう呼ばれた事もあったね。有海学園でそう呼ばれていたのは、ほんの4年間だったけど」 淋しそうなその顔を神田が眉間に皺を寄せ、痛々しげに見ている。 そんな神田を見て、現役ライダー2人のが目を見合わせる。 2年前のライダーバトル。当時のライダーは有海の生徒だったと聞いた。 と、言う事は……… 「あの…失礼ですが、神田さんは今、お幾つで………?」 「………………20歳になったばかりだが、何か?」 ありえない。 そんな表情が2人の顔に浮かぶ。 しんと静まり返った店内に、常連がダーツに興ずる音だけが響く。 「えぇと、それより佐野君を助けに行かないと?」 苦しい話題転換…ではなく、本来の話に漸く戻り、場に再び緊張が走った。 「神田君、先輩として助けてあげたら?そのつもりで来たんだろう?」 眉を顰めたままの神田が、ポケットから1つのコインを取り出して、宙に投げる。 落下するそれを受け止めて、手を開けば、店の照明を反射して『CIEL』の文字が緑に光った。 「…表か。今日はたまたま近くに来たので立ち寄っただけだが……一生に一度位は後輩の育成等という事に時間を費やしてみるのも良いかもな」 丁度、次に控えている仕事は育成ゲームだし…、という呟きは、マスターの耳にだけ届いた。 神田の仕事が女性向18禁ゲームのプログラムだという事を後輩達が知らなかったのは幸いと言えるのだろうか。 「所で、佐野というのはどんな奴なんだ?そいつもライダーか?」 神田の問いに、残り全員が一斉にあらぬ方向を見た。 「うちの、バイトなんだけど…」 「ライダーじゃないんですけど、まぁ事情は知ってて………?」 「…悪い奴では無いんです。ただ少し思慮が足りなくて、現実に歩いている女性ばかりか運命の女神にももてないタイプ……とでも、言っておきましょうか…」 わかるようなわからないような説明に、言及するのが面倒になったらしい神田が溜息を吐いた。 「まぁ、いい。会えばわかるだろう。つまり愛嬌はあるが、うっかり気味で、へたれ系という事だな?」 身も蓋もないが的確な結論に、3人は同時に深く頷いた。 「助けに…という事は連れ去られたのか。行き先に心当たりは?」 「向こうからの要求が来るまでは、闇雲に探すしかなさそうです…」 夢前が、悔しそうに唇を噛む。 その肩に勅使河原の手がそっと置かれ、手元にはアイスティーらしき物が松原によって静かに置かれた。 ―――――未熟な後輩達だ。 いかにも『先輩』らしい苦笑の裏で、神田がそんな酷評をしていた事を若い後輩達は気付かない。 未だ成長過程にある後輩達は、かつて旧世代のライダー達を導いた指導者と共に、建設的とは言い難い作戦会議をしている。その内容が必ずしも正しい方向に向いてはいない事も、時間の無駄になるかもしれない事も、松原は指摘しない。 2年前、自分達もそうして学ばされたという事を神田は忘れていなかった。 だから、口を挟まない。 店の奥にちらりと目をやれば、ダーツボードに刺さったダーツを抜いている男がいる。 男は引き抜いたダーツを手にスローイングラインまで戻り、再びダーツを構えた。 手から離れたダーツが、ボードの中心に刺さる。 視線に気付いたか、男が神田に視線を流した。 勝ち誇ったような笑み。 細められた目が、一瞬カウンター方向へ向けられ、そして肩を竦めた。 ………生きていたんだな。 JUNEの刺客、市河と共に炎に消えたはずの、ライダーBB。 2年ぶりの逢瀬は視線の交わしあいだけで終わり、私物であるらしいダーツをケースに仕舞うと、彼はカウンターへ近づいた。 「ごちそーさん。勘定ここに置くぜ?」 「今日はもういいの?」 「あァ。ちっと野暮用があってな。ンじゃ、また♪」 ひらりと手を振り店を出て行く相手に、ありがとうございました、というマスターの営業用挨拶が続く。 神田と松原は目配せすら交わさない。 もう一人のライダーの存在を何故、後輩連中に隠すのか。 口を噤む理由はそれぞれであったが、それはどちらも今目の前にいるこの若いライダー達に教えるべき事ではなかった。 ふいに、夢前の携帯が鳴る。 メール着信だったらしく画面を見ると、その顔色が変わった。 「佐野からだ!行こう!!」 バイクのキーを手に、出口へと駆け出す若きライダー。 後に続く、先代ライダー。 3人の戦士を松原が、優しく見送る。 「……今度の闘いでは…何人、生き残れるかな…」 静かになったカウンターの奥で呟かれたその言葉を聞きとめた者は誰もいなかった。 3人のライダーは無事佐野を救い出せるのか? そして、ライダーBBが再びベルトを手に取る日は来るのか!? 次回、仮面ライダーBLエピソード#5『コインの告げた真実』をお楽しみに! |
>>>匿撮(…) -- 04/09/20-00:22..No.[37] | |||
某茶道部員PLと特撮の話をしていて、『特撮→ホモレンジャー→レッド→ヘタレッド→佐野君→ライダー物の変身出来ないけど仲間で、可愛がられているだけにすぐ人質になるタイプ』と、有海連想ゲームより強引な展開で話が転がり、出来上がりました。 登場人物の皆(特に佐野君)ごめんなさい(爆) 茶道部しかいないのは、身近な人間しか口調がわからなかったからです…(ふ) |
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