小さい妹を膝に乗せる。 何枚かのポストカードを、ゆっくり捲くりながら見せる。 自分で持ちたがるのを、笑いながら避けて、カードを指差し 「……に、水が…」 子供独特の匂いがする髪に口元を寄せて説明する。 あまり喋らない妹はお絵かきが好きだ。 いつも、見本とは違うクレヨンを掴む。 本物とは違う色を手に握る。 象を黄色に。猫をピンクに。 机は空色に。 「描いて見るか?」 言って、紙を広げると、うつぶせになった妹は真剣な顔で眉を寄せ、やっぱりポストカードの生き物とは違う色のクレヨンを握りこんだ。 対面に、肘を着いて眺めながら、思わず目を伏せて笑う。 色の減っていない、グレーのクレヨンを持って、反対側から 「あ」 「あ」「か」「り」 「あかり」 いくつも妹の名を書く。 妹はまったく無視で、口元を尖らせて一生懸命クレヨンを走らせている。 「違う。…もっと、お山があるんだ」 指で絵の上にカーブを描くと、妹がその指を追うようにクレヨンを動かした。 出来上がった、と言うように顔を上げる妹を見て、逆に、絵を批評するように視線を落とす。 「…よく出来てる」 少し大仰な評価がわかるのか、わからないのか。 肩をすくめるように首を沈ませて笑い、ころりと横に半回転する子供に、 「これ、俺にくれないか」 お願いをして、もう次の画用紙を広げる妹を横に見、許可を諦め、笑い、画伯の『名作』を畳んで、ポケットに仕舞う。 いつか、彼に見せよう。 それはささやかな幸せ。 |
>>>SP -- 04/12/02-17:13..No.[48] | |||