「大変だ!佐野がまた攫われた!!」 「………またですか…」 飛び込んできた夢前の言葉に応じる勅使河原の声には、諦めに似た色が混じっていた。いや、呆れとも取れるかもしれない。 「なんだってあいつはいつもいつも簡単に攫われるんだ…」 マスターに出された水を飲み干した夢前が、苛立たしげに空になったコップをカウンターに叩きつける。 無理も無い。佐野がJUNEによって拉致されたのは、一度や二度ではない。 心配して心配して、そして誰もが傷だらけになって救い出せば、当の佐野は必ず無傷で帰って来るのだ。 勿論佐野が傷を負うことなど夢前も望んではいない。けれど、仲間の傷が増える度に、容易く攫われて行く佐野への苛立たしさを覚えるのは仕方の無い事なのだろう。 それでも、放っては置けない。 友情なのだろうか。 いつでも誰もが満身創痍になってまで、佐野の救出に向かってしまう。 それは、仲間になったばかりの甲斐さえもが、同じ事だった。 「何故『簡単に』攫われるのか…は、あの学習能力の無さのせいであり、何故学習能力が無いかは佐野の脳味噌の皺の数でも数えてみない事にはわからんが…」 「なンで、いつもあいつが攫われるかは、明確だァな。ライダースーツも着ねェで、あンだけプラスアーグを垂れ流してりゃあ、鹿煎餅ぶちまけながら奈良公園歩いてるようなモンだ。エサに惹かれた奴らが、うようよ寄ってくらァな」 1つであったはずの夢前の問いかけ………それは愚痴の形ではあったが…に、予想もしない返答が2つに分かれて返ってきた。多少小難しくしつつも比較的一般的な範囲で答えた神田が、眉を顰めて隣に座る相手を見る。 『専門用語』を使いつつも、わかりやすい例えで、謎の返答を与えた甲斐は、視線には応えずに煙草を咥えた。 「甲斐さん、その『プラスアーグ』ってなんですか?」 問いかけに返答を得られない夢前が、問う相手を神田に変える。 だが、それでも重い溜息しか得る事が出来ず、同じ疑問を抱えた勅使河原が、カウンターを挟んで立っている松原に声をかけた。 「マスター、プラスアーグとは、何を意味する言葉なんですか?」 年若い2人のライダー。 たまたま得たコインとバイクのせいで、ベルトを纏って気がつけば戦いに巻き込まれていた。 JUNEにコインとベルトを渡せば大変なことになる、と。それしか知らされないままに、若い勢いだけで戦いに臨んでいた。 この戦いが何を意味するのか、彼らは知らない。 知る間もなく、次々と戦いは仕掛けられた。 導き手は、いつも多くを語らない。 重ねようとする問いは、いつも笑顔ではぐらかされて。 けれど、今日は。 全てを誤魔化してきた笑みが消えて、現れたのは、まるで見知らぬ男のような。 神田よりも 甲斐よりも より、『戦士』の顔をした男が、漸く語る時が来た。 語られた言葉は、存外に長く、そして深く。 重いものだった。 『アーグ』というものがある。 もの、というには語弊があるかな。エネルギーを示す言葉だ。 物質がそこに存在する為のエネルギー。 その強弱は、存在感の強弱とか、そんな程度のものじゃない。 文字通り、存在できるか否かを示す。 アーグが弱いものは、より強いアーグを見る事が出来る。そして、影響を受ける。 けれど、強いアーグを持つものに対しては、目に触れる事も影響を及ぼす事も出来ない。 例えばここに、弱いアーグを持つ生き物がいたとする。 俺よりもアーグが弱いそれを俺は見る事が出来ない。 こうやって。 手を横に払う。 それはきっと、吹き飛ばされる。 けれど、俺にはダメージが無い。 星だったらどうだろう。 この地球が放つエネルギーで滅ぶ星があっても、地球人はもちろんそれに気付かない。 なのにそれは、強いアーグを持つものにとっては、とても容易い事だ。意識しないまま、出来てしまう程に。 プラスアーグの存在は、アーグが近くて影響しあっている場合、より強い影響を相手に及ぼす事が可能だ。 マイナスアーグの存在は、プラスアーグに圧倒され、決して勝つ事は出来ないが、その影響から逃げる事は出来ない。 佐野君は、プラスアーグの存在だ。 簡単に言えば、彼はありえないカリスマを持っている。 影響し合えるレベルの中で、俺が知る中では最強のアーグの『人間』だ。 きっと、彼はあとほんの少しアーグレベルが上がっただけで、俺たちを見る事が出来なくなる。 地球のアーグレベルから、外れてしまう。 君たちには、佐野君は見えるだろう。 けれど、彼の世界から俺達は除外される。 彼は、この世界のジョーカーなんだ。 長い話が終わった時、2人の若いライダー達はきっと、それを理解しきれてはいなかったと思う。 わかったのは、佐野は『特別』な人間だという事。 そして、まかり間違えば、佐野は自分たちの前から消えてしまうという事。 それが、自分たちよりもむしろ、佐野にとっての恐怖だという事。 「……遠い昔…いや、古代文明といえば良いか。アーグを研究した人間がいた。その男はアインシュタインも足元にも及ばぬ程の天才で、アーグを制御する装置を作り出した。それを使えば、1つの国家をこの星で唯一の国とする事が出来る。マイナスアーグの国の人間には彼らは見えるが、彼らはマイナスアーグを見る事が出来ない。見える範囲だけで好き勝手するならば、地球は彼らだけの楽園になると言う訳だ」 「もちろん、ンな事になったらマイナスアーグの国の方はたまったモンじゃねェ。何しろ、そっちはモロに影響受けンだからな。自分らに目もくれず好き勝手やる奴らに踏みにじられて、自分らの国も生活も、何もかもめちゃくちゃだ」 「…とあるアーグ研究者の推測だけど、遠い昔はそういったアーグの衝突が星間レベルであったと思われる。マイナスアーグの星が運悪くプラスアーグの星と重なって存在してしまっていたら、きっとマイナスアーグの星は消滅への道を歩んだだろう・と。だから、1人だけアーグレベルが違うというのは通常ありえない。…混血できない以上、絶対人数が少ない方が滅びるからね」 つまり それは、つまり 「その、アーグレベルを制御する装置を使えば……佐野は、世界で一人ぼっちになって、そして、一人で死ぬしかないって事ですか…?」 震える唇で、震える声で。 ようやっとそれだけ搾り出した夢前の肩に、勅使河原が手を置いた。 「それだけじゃないですよね。JUNEがそれを手にすれば、自分達に都合の良いものだけを残して、この星に彼らだけの文明を築く事が可能………それが、以前マスターが言っていた、彼らの『脅威』ですよね?」 3人の導き手が、頷く。 夢前が思い当たった、感情レベルでの『脅威』。 そして、勅使河原が気付いた、物理レベルでの『脅威』。 「……JUNEが、コインとベルトを狙う理由が、わかったかい?」 静かな、声。 全てを知る者。そして、導く者の。 「ベルトは、アーグ制御装置から。そして、コインは、その稼動エネルギーから出来ている」 それはまるで、天啓のような 宣告のような 「君たちが纏うライダースーツ。それこそが、プラスアーグの物質だ」 告げられた真実は、若いライダー達の想像を越えたスケールのものだった。 地球の平和?そこまでを背負って戦うには、彼らは若すぎた…… 「もう嫌だ!こんなもの壊して捨てて……それで、終わりにすればいいじゃないか!!」 しかし、過去の戦いで失われたものがある。 取り戻すべきものが、神田と甲斐、そして松原にはあった。 「あの人たちはきっと、今も戦っている」 「今、目の前にいても…俺達ゃ、手ェ貸すどころか、見る事もできねェんだ…っ!」 憤る2人。 そして、少しずつ語られる松原の過去。 「君達の乗っているバイク…『M.It』は、俺の知人が作ったものなんだ。コインのエネルギーをバイクを通してベルトに変換して、アーグレベルを調節して…。そう、彼は現代で唯一のアーグ研究者だった」 激しさを増すJUNEとの衝突。 辛くも救出された佐野は、どこか距離を置いているように感じる友人達の態度に、戸惑いを隠せない。 「…なんだってんだよ!2人共、最近おかしくねぇ!?」 ともすればこの世界の覇者にもなれる男は、何も知らないままに孤独の縁に立たされる。 戦いに、早期決着をつけるべく持ち出されたのは、禁断の武器。 「これは、君らのアーグをライダースーツに送り込み、スーツのアーグを更にプラスする。けど、気をつけて。使いすぎれば君達自身のアーグが弱くなる。……アーグレベルがこの世界に拒絶するまで落ちれば、この世界で存在する事が出来なくなる」 全てを終わらせた時、自分達はこの世界に存在していられるのだろうか―――? それでも、コインもベルトも奴らに渡す訳にはいかない。 「俺達は…俺達がここに存在するその為に……戦うしか無いんだ!!」 次回、仮面ライダーBL#14『ここに在るその意味』をお楽しみに! |
>>>匿撮ファンの唯。 -[URL] -- 04/11/05-01:45..No.[42] | |||
毎回色々はしょって短編なので、設定を一気に……(爆) はい、これはあくまでパロディです。 アーグも某少女漫画からネタ拾ってます。大好きだったんです、R野原(笑) ぶっちゃけ設定説明用に書きましたが、でだしはあくまでデフォルトです。 やっぱりライダーは皆それなりに死亡フラグが立つのがお約束ですね。 尤も、この場合は死亡じゃなくて、存在できなくなる…ってヤツですが。 すっかりオリジナルになってますが、有海キャラを使ってる意味ってのをもうちょっと出していきたいですねぇ…(ふ) 次はもちょいライトな感じでいこうかと。でも、泥沼ちっくな方がいいのかなぁ(笑) てゆーか、地球の滅亡が関わるのは、ライダーじゃなくて戦隊のお約束……?(混ざり気味) |
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