某夜の数時間




頬に当たるくすぐったい感触で 意識を取り戻した。




うっすらと瞼を数回震わせれば それだけの動作でも 頭に響く鈍い痛み。
音は何も聞こえないのに さっきから 何かが頬をくすぐる。

それがやけに心地良くて、未だアルコールの残る身体で。
目は閉じたまま 腕は無意識に宙を彷徨い



少しだけ ほんの少しだけ 腕をそちらへ。



指先に触れた暖かいモノ ・・・生き物?



真っ暗な瞼の奥で、眼球がピクピクと 手に触れる感触と共に反応するかの様。

まだ 頭は痛い。
数秒前の記憶は 何も思い出せず。
今は重い瞼を開けることしか、自分のするべき行動が思いつかない。






ゆっくり 開いた。 

そこに見えたものは 

知らない人間の男で。

同じ、年ぐらい だろうか と 思う。






暖かいと思ったモノは、その人間の体温で。

くすぐったいと思ったモノは、その人間の柔らかな寝息。





暖色の弱々しい室内ランプの灯りに うっすらと浮かび上がる 照らされた茶色い髪。




すぐ横で、眠っている。

衣服は、ちゃんと着ている。

ここは、何処かの室内で。


今は、一体、 何月 何日 何時 何分?





一つ一つ順を追って 上手く働かない思考回路を働かせるも
すぐに『どうでも良い』という結論に辿り着く。

気怠い身体を動かすのもおっくうで、視界に見える範囲だけを見渡せば
少なくともこの人間の住む部屋では無い事が 何となく解る。

黒いカーテンで閉めきられた窓からは、ネオンの彩色が漏れて。

これから朝が来るのか それとも これから更に夜が更けるのか。



時間の感覚に狂わされながら。




男の髪を指先で弄び 
サラリ サラリ と
まるでそんな音が聞こえるかの様 流れ落ちるさまを ぼんやりと眺めつつ。



時折小さく唸って 動く身体
『行為』をした形跡は 見あたらない。 



この人間が目覚めれば 
自分との間にどんな繋がりがあって 今現在、一緒に居るのかが 解るだろうか。 
 




解りたくも、ない。

解っても、どうなる事でもない。


後から言い訳の様な一人思考が 意味も無く追う。



ベッドに沈んだ己の身体を 痛みに逆らい 半、無理矢理に ゆっくりと起こして。
上から その人間を見下ろす様に。


頭の先から 足の先まで視線を辿らせると
ズボンのポケットから 財布が顔を覗かせているのが見えた。


そっと、目が覚めぬ様 顔を伺いながら 音も立てずに 抜き取って。







派手な門構えから 一歩外に出れば
車の排気ガスと 蛍光色のネオン灯に彩られた 人通りも少ない夜の街。



しつこいぐらい付きまとう 頭の痛みと 胸のムカ付きと

暖かい体温がうっとおしくて。





あの人間は いつ目覚めるだろうか。
きっと目が覚めた時、そこで後悔するだろう。




横たわる自分の周りには 中身がぶちまけられた己の財布と 封を切ったコンドームの袋
無造作に捨てられたゴムは 未使用か そうで無いか
使った事のある者ならば 解るであろう。 男の足元へと。




ただ、一つ 不意に思い浮かび上がったモノは 



誰かの言葉と 誰かの頬を伝う 涙。





「死んではいけない。」と 





その 一場面  ただ 言葉が繰り返す。




あの男の言葉だろうか、それとも・・?





 




アルコールが醒めるのと同じ様に きっといつの間にか 忘れるんだろう。


あの男の寝顔も 柔らかい髪の感触も  暖かい体温も


その 言葉も何もかも。 






 >>>鳳凰   -- 04/09/23-21:13..No.[38]  
    その後、という感じで。
置いて先に帰る、という感じの方では無いように感じたので
こちらの方で先に帰らせて頂きました。(ぉぃ)
先に帰りたかったならごめんなさい(笑)

ちなみに、財布の中身が変わっていないのか、もしくは減っているのか
増えている・・・という事はありえませんが(ぁ)

それはそちらに任せます故、お好きなように(^−^)
絡んで頂いてありがとうございました〜♪(一礼)


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