クロマトグラフィー


起きたら11時だった。
予想通り、家には他に誰もいない。
餅を一つ、レンジで温めてダシと一緒に御椀に入れて簡易お雑煮。
こんなものだと、妥協する。
テレビのチャンネルをぱちぱち、適当に。
一番賑やかな(それは五月蝿い、とも言える)正月番組で止める。

父と母は今頃本家に赴いているのだろう。
祖母に会いたい気持ちはあった。けれど他の親戚(昼間から酒を飲む神経が自分には理解できない)と顔を合わすのは躊躇われた。
それに、人の顔を見て同じ質問しかしない。あの人たちは。

空になった御椀と水につけておいた鍋を洗う。テレビの音に景気よく捻り出された水の音が混ざった。

◆◆
正月だから雑煮か、僅かに迷ってインスタントコーヒーを入れた。
一人で迎える二度目の正月。
コーヒーの湯気を背にポストへと向かう。輪ゴムで束ねられた年賀状を飲める温度になったコーヒーを口に、一枚一枚目を通す。
学生時代の友人、親戚、会社の同僚、上司…今となっては顔も名前も違えてしまった知人。一様に同様の挨拶の文句が並んでいた。人のことは言えないのだが。

「……、…。」
一枚の葉書に手が止まる。台本にある台詞のように、決まりきった所作のように。それを机の一番下の引き出しに、他は元通りゴムで束ねて机の上に置く。
コーヒーはコップ半分、それ以上は減らなかった。

◆◆◆
すたたたたんっ!と居間まで真っ直ぐ伸びた廊下を走る。今日は毎年恒例家族で初詣。早起きは苦手だけど、明日は親戚が集まる日でそんな暇はないし、明後日はおばあちゃん主催のお茶会だから逃亡予定。…結局、私のお正月は早起き、と。毎年変わんないなー。

「恵ー、仕度できたー?開けるよー?」

言い終わらないうちに和室の襖を開ける。
淡々と元旦の朝っぱらからゲームに勤しむ弟の横顔が覗いた。

「…こっちが答えてから開けろよ、せめて。」

目はテレビの画面に向けっぱなしで答える。いつからこいつはこんなに愛想悪くなったんだろう、小さい時は可愛かったのに…。

「…で、何?用は。」

珍しくしみじみしてるのもお構いなし、言葉の裏に「用がないなら話しかけるな。」が窺える。こっちも慣れたもので、

「んー?着物ー、着付けて貰うなら早く行かないとー、って」

言いに来たんだけど、を言い終わる前に、

「着ないよ、着物は。」

……あ、そう。言葉にする前にゲームの画面がテレビから消えた。

「動きにくいだけじゃん、着物。下駄だって足が痛くなって、結局脱ぎたがるだろ、お前は。」

テレビから視線がシフトする。立ち上がり、違うのか、と言わんばかりに首を傾げた。下にあった顔を見上げる形になる。

「…それは、そうだけど、どー…!っていうか、お前って何よ、お前ってー!!」

可笑しそうに口元を歪める顔が見えた。

ぴしゃん!と襖を閉める。……。ちょっと開けて、

「あけましておめでとう!」

早口に言ってまた閉めた。きっと恵は笑っているに違いない。
そう思いながら。
歩いて、母がいる居間に向かった。




 >>>匿。   -- 05/01/02-20:28..No.[60]  
    キャラ3人の一月一日。ちょっとずつPLとリンクしてたり、してなかったり(どっちだ)


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