あさ

朝は何時も4時半だ。


大きな障子の張った戸に攻撃するように、寝返りを打った衝撃のせいで
30分ぐらい早く起きてしまったがまあいい。
そう言うときは早起きは三文の得と己の身体に鞭を打って、のそのそとまだ己の体温の残る布団から抜け出す。
少し腐りかけた木の香りが鼻腔をついた。
…早くここもなんとかせんねばね。
まだ半寝の脳の片隅でそのようなことを思いつつも。年季の入った階段はギッと音を立てて自分を支えた。



下の階では既に着物―――ここでの制服に着替えた母親が、
シーツの洗濯、弁当の拵え、父親の包丁研ぎ、文句も弱音も何一つ言わず何十年間と、やってきた。

「あら、今日は早いなあ。アリでもおったの。」
「違お、しょーじに足あおしたと」
「アホちゃうのん…はよ顔洗いよし。寝癖、ついてますえ。」

生っぽい間抜けな返事に母親はくすくすと微笑みを零したまま、良い香りのする台所に又表を向ける。

獅子崇と(父と)、母親では喋る言葉が違う。
今その話は、後に。とっておこう。
説明すれば長くなるからである。


自分もモソモソと制服を中途半端に着て顔を洗い、髪を適当に結って自分の弁当と朝ご飯の支度を手伝った。
前髪の方も伸びたんねと言われて、ほうか?と返す単純な会話を交わしながら。

ふいに、足下から背筋に寒気が走る
早起きのため肌寒い朝には慣れている、とは言っても南と東京とでは、寒さの度合いが違う。
少し土地を上っただけで何だろうこの温度差はと来たばかりの時は、父親共々嘆いていたっけ。

やがて父親の起きてくる音がした。妹も降りてきた。大抵一番遅いのはあか抜けた従兄だけだ。
居候のくせに遅い。そして大抵、獅子崇がウンザリとした顔で乱暴に起こしに掛かる。メシ抜かすぞと。


彼らの朝は早い。そして落ち着かない。
ご飯が終わればすぐに店の支度をして、父親は客の朝飯。従業員も沢山いるとはいえ、はんなりとした彼らの裏側は静かな戦争だった。
優々と学校に出られるだけ幸せと思うべきかねと思いながらも、今日は走って学校へ行こうとした。

昨夜届いたメールの内容がふっと脳裏をよぎる。


・ ・ ・ ・ ・ 。




頭をガシガシと掻いて参ったような顔をしながら
下駄箱の上に置いてあったスクーターの鍵を取って、家を出た。







 >>>他漏   -- 04/12/27-21:52..No.[52]  
    他漏です…
ぶんしょうは にがてとです

あおす=ぶつける


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