アンジェリーナの紙袋

リビングのほぼ中央に据えられた布張りのソファ。
アームに四角いクッションを添え、その上へと頭を乗せ、もう片方のアームに踝を組んだ状態で足を落ち着かせる。
ほぼ、癖となった体勢で、天井の隅に追いやられた歪んだ長方形の陽だまりを。ぼんやり、眺めた。

鼻を幽かに掠めるのは、母親の香水の馨り ―街を歩けば同じ匂いに幾らでも擦れ違うような、それは曖昧な自己主張の表れだと思う― で、あり、事務所を構えてからというもの、滅多に家に寄り付かなくなった父親は、どうやら昨日も帰らなかったようだ。

晴れた日の家の中は、外よりもひっそりしていると思う。流れる音楽や、窓辺に置かれた観葉植物たちでさえも。


かかっていた音楽のヴォリュームを更に絞る。

Can't Buy Me Love― ビートルズは時に感傷的過ぎる、と。母親は軽蔑するが、ビートルズは元々父親に勧められたものだ。それをあの人は知っているのだろうか。

英語は得意ではない。嫌いでもないが、字幕無しで映画を観るなどというスキルは持ち合わせていない。必然的に洋楽の歌詞は覚えない。ただ、流れていれば心地よい。それ以上も以下も望まない。そういうところが気に入っている。感傷的になる必要は、ないのだ。


僅かに傾き始めた太陽の日差しを瞼に当てる。一時間ばかり寝ようと、そのまま目を瞑った。もう少し日差しが和らいだら起きればいい。制服に着替えて、いや、その前に一度窓を磨いておくべきか。気が向けば、そうすればいい。今はとにかく、眠ってしまおうと思った。



 >>>匿名。   -- 05/05/04-21:08..No.[113]  
   


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