心がゆっくりとゆったりとなんの音もなくそっと、壊れていく。風にもまれて、雑踏に踏まれ、砂漠の一部と化す。砂粒の中にかくされた本当のことを。 髪の色にも似た深紅の傘が、となりを通り過ぎていく。はでないろだ。雨が少しずつ世界から色をそぎおとしていく。そぎおとされていった色たちが堪らなく愛しくおもい手を伸ばす。 あと、数ヶ月。もう十何年目になろうかという、じめじめとした気に食わない夏がやってくる。この時期の父の口癖はこうだ、 「イタリアの夏は――――」 堪らなくあの地が恋しくなる。恋焦がれる。あちらにいた時期のほうが短いというのに堪らなく恋しくなる。あめがまだ色をそぎ落としていく。 憂鬱な気持ちで振り返る。となりを通り過ぎていった深紅の傘の後ろすがたが見える。うれしそうないろだ。そがれた色の中で、ひたすらに鮮やかな赤い色。 傘の柄を肩にかけて、水溜りを飛び越えていく。いつもと同じように履いてきたサンダルには少しばかりの後悔を覚えたが、ぐちゃぐちゃになった足は寒さをかんじさせるわけでもなかったので、まあよしとしておこう。 家から持ってきた傘は暗い青い色をしていて、どこかのブランドらしいがよくは分からなかった。とにかく、雨が防げればよいのだ。と、近くを走り抜けていくひとを見るたびに一人心地た。 だれかともだちに会うわけでもなく進んでいく、というか、自分にともだちというものがいるのかどうかもあやふや。あまり、そのようなことを気にするタイプではなかった。ついでに、どうでもよかった。 新品の学生服にあまつぶが乗っかって、新しいそれは水をはじいた。普通のよりか、いくらも長い学生服の裾がみずたまりを飛び越すたびに舞った。 |
>>>八鍬pl -- 05/04/24-23:51..No.[110] | |||
雨は好きくないですね、あんまし。 だって髪がボンバーサリーちゃんのパパですから。 |
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