少年たちの策謀





「でっさ、まあ、そこで言ってやったわけな」



話が佳境に入って来たところで、
話の流れにおいていかに重要なポイントであるかを、
彼の場合は一呼吸置く事で、それを相手やその場の皆に知らしめた。


「なんだよ、早く言えよ」


口先では先を急かしながら、
制服に着替える合間に携帯の液晶に浮かぶ時刻を余所見するのには
気付かれていない。彼は、特に過大な脚色を加えた自分の話に
熱が帯びてくると、言葉の継ぎ穂となるタイミングを見誤るのを、
慣れで聞いている誰もが知り尽くしている。




「俺はそんなの許せねえから別れてって」




恋愛に置いて、主導権を持つ側がいかに利口であるかを得意げに話す。
お互いがお互いの許容範囲の奥へ踏み込んで、
そのバランスを失いあう事でどちらともの充足は得られると思う。





「言ったね」




ささやかに持ち上げる相槌を打ちながら、
話の8割が合っていればマシなほうだと値踏みを踏んだ。
校内でさほどの浮かれた話を聞かないわりに、
彼自身の口から次々と明らかになる彼の武勇伝は止め処がない事は
周知の事実だ。




「まあな、女っつうのは優しくしてやるだけじゃ
満足出来ねえかんな。」




女のそれよりもかなり遅れて、
自分が男であるという明らかな自覚が生まれたのが
ついこの間のはずであるのにも関わらず、
性という隔たりを全て理解しきれたような言葉を連ねる。

甘えたがりの分際で、
自尊心だけは研ぎ澄まされた若々しい精神は
露骨な表現であればあるだけ、
周囲を圧倒しうると盲信をするきらいがある。




「写メとかねえの?」




小利口な上に慎重な性格の彼が、
こうしたカマを掛けるのは珍しい話ではない。
その性格が災いをして、
彼女との出来事を他人に漏らすまいと意識を置き過ぎて、
女子同士のネットワークが収束の付かないところにまで
流布している事を未だに気付けていないのは、
足元を留守にしていると言わざるを得ない。



「ねえよ、俺、そいうの嫌いだからさ」



飽くまでも自分が優先的であるという事に拘り続ける彼に対して、
この話の信憑性を更に薄くした相手は、
そこからはやや、話をつまんで聞く事に従事した。


相手から別れを切り出された上に、
もうのっぴきならない所にまで進んでいるのだと見透かした。

その話が広まった場合を想定して、
先んじて情報を流布したまでは良かったが、
その彼女から大方の話を聞き及んでいる相手は
真実がわかるはずだろうと、
制服の袖についた留めにくいボタンを閉じ切りながら、
せせら笑った。























語るまでもなく、
ふたりともそれから程なくして
それぞれの彼女からは捨てられる羽目になる。


どこか狡猾さに欠けて、間が抜けている。
かばい合う友情は、
「痛みわけ」という未熟さからの温かさを孕む。
いつか失わざるを得ない、
感情のみに集約をされたやり取りを懐かしむために。

少年たちは、
今はまだそのやり方に気付き始めただけの、慣れない手付きで。



大人への手ならいじみた、不恰好な小さな波紋を投げかける。




 >>>RI   -- 05/05/19-04:57..No.[116]  
   
ときおりに発作を起こす言葉遊び。

フィクチョンです。
ドリーマードリーマー


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